比叡三峰 「白亜スラブルート」オール・フリー




鹿川通信より転載


2004年7月31日(土)
 台風が近付いている早朝、宮崎に向かって車を走らせた。隣には池田祐司。庵・鹿川のビール祭りと中国・牛心山の打ち合わせのついでに、比叡三峰 「白亜スラブルート」のフリー化を狙った(が、どうも大分の方が既にフリーで登っておられることが、後日判明した)。前日に開拓者のお一人の北山さんにも連絡をとって、その素晴らしさに期待しつつ、雲が重く垂れ込める綱の瀬川へ。
 三峰のトンネルを過ぎた駐車スペースで、準備をして、トンネルを歩き返して、その上の取り付きへ。9時半頃に登攀開始。

 1ピッチ目。35m。従来の左方カンテルートの1ピッチ目を辿り、カンテ状の終了点を越えて、草付きを横断し、もう一つのカンテへ。III+とのこと。長友リード。

比叡山3峰。左下の白いスラブに3P目のクラックが走る。中央のスカイラインの辺りがハング。
1P目。III+。左方カンテルートとラインを共有。




 2ピッチ目。25m。クラック。かかりはよさそうだ。池田リード。「カムが使えそうですね」と、ボルトには目もくれず、キャメロットのみで登っていった。結局、オール・ナチュプロ、オンサイト。ランナウトがひどかったが、「落ちないでしょう」。確かに、レイバックなどを駆使して登るが、手のかかりはよかった。ここはオリジナルでもフリーで登られており、5.10bとのこと。池田は「三倉グレードだったら5.8あるかないか」と言っていたが、なんぼなんでも三倉は辛すぎなので(三倉は5.9でも返されたりするし)、5.10bで妥当だということになった。が、その後に他の方の、5.9というご意見も。

2P目。池田君、オール・ナチュプロでオンサイト・リード。
かかりのよいレイバック主体のクラックだった。




 3ピッチ目。45m。遠目にも美しい、白いスラブに走る、とても長いフィンガークラック。40m近くありそうだ。長友リード。三分の一辺りで、クラックが一度途切れ、スメアを信じて次のフィンガークラックに移る箇所が、おそらく核心のようだ。そこを越えても延々とクラックが延びていて、長友はその長さに圧倒され、かなり時間をかけてしまう。「このグレードで、この長さだと、どこかで落ちるかも・・・」と思いつつ覚悟を決めて登っていくと、意外と足のスメアが効いたり、穴ガバがあったり、クラックも指がよくかかったりで、何とかオンサイトでピッチを抜けた。5.11aくらいだろうか? と思ったが、池田は「5.10台ですよ」と言うし、後日他の方の意見を伺うと、ピンが近目でしっかりと整備されていることもあり、5.10aだとおっしゃっていた。どなたか、登ってみてご意見をお聞かせ下さい。終了直前に大きな浮き石がある(前日に北山さんから伺っていた通り)ので、要注意!

3P目の、スラブに走る長いフィンガー・クラック。左のハングの右のコーナーが4P目になる。
3P目をフォーローする池田。








 4ピッチ目。35m。コーナーのレイバックから、ステミングでハングの横を抜け、5mくらいのハンド・クラックの段を二つこなす。池田がまずリードするが、ハング上のクラックでワンテン。このままではフリー化にならないので、ひとまず降りてきた。ロープを抜いて、「長友さん、やりますか?」「いや、このピッチは池田のピッチだから、レッドポイントどうぞ」というやりとりの後、池田が3mほど登るが、「でも、オンサイト・リードでフリー化したいでしょ?」と下を向いて声を掛けてきた。「僕が登ってもフラッシングだろ?」「でも、ほとんど見えてないでしょ?」実際、核心のあるハングの上の方は、下からは見えてないので、実質、オンサイトと言っていいようだ。結局池田はクライムダウンしてきて、長友リード。ハングまでのクラックや、ステミングによるハング越えは快適なムーブ。ハング上の核心のクラック一段目は、抜けが難しかった。滑りそうになる足を「うお〜っ!」と叫びながらレイバックでこらえつつ、やっとリッジを捕まえた。5.11bは感じた。二段目のクラックは手がかりがあったので、バランシーながらも比較的容易に抜けられた。フォローの池田は、この核心を、楽なムーブを見いだして、あっさり抜けてきた。せいぜい5.10cくらいだと言う。間をとって?オンサイトグレードで5.11aくらいでいいかな、ということにしたが、他の意見では5.10b/cというものもあった。う〜む。 ビレーポイント右手には大きな浮き石があるので注意。

4P目のハング横のコーナー。
4P目の核心の、ハング上のクラック。




 5ピッチ目。25m。小フェイスを直上し、右に巻いて、スラブを登る。池田リード。V+(5.7)とのこと(IV+との意見もあり)。宙に突き出たテラスで終了。全てのピッチを、オンサイト・フリー・ノーテンションで登り切った。

5P目。




 立木で懸垂下降。何度か懸垂して、13時過ぎに取り付きに戻った。終わり直前に雨が降ったり、風も強かったが、何とか天気が保ってくれて、暑くないクライミングが出来た。  

 クラック主体で、特に名前の由来の3ピッチ目のスラブに走る長いフィンガー・クラックは、傾斜はひどくきついというわけではないものの、緊張感が連続して、とても素晴らしい。また、2ピッチ目と4ピッチ目は豪快なムーブが楽しめる。前回フリー化した「天空への階段」と並んで、そのライン取りが秀逸で、比叡三峰を代表する味わい深いルートである。先鞭を付けられた鷲同人の方々、オリジナルラインを加えて新たなルートととしてリニューアルされた三沢さん、北山さんをはじめ、庵・鹿川の開拓に携わった方々に、心からお礼を申し上げる次第である。

 なお、グレードは揺れが大きいので、再登された方で評価をし直していただければ幸いです。


「白亜スラブルート」は、池田氏によって、ソロ、オール・ナチュプロ、オール・フリーでも登られています。また、
水流渓人さんの宮崎てこてこ山歩き白亜スラブレポート
すがまっちさんのINSPIRE PEAK宮崎・比叡III峰白亜スラブ
もご参照下さい。


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