大崩山



小積ダキ中央稜ルート










小積ダキ中央稜ルート トポ PDF


小積ダキ中央稜ルート アプローチ PDF




小積ダキ中央稜ルート 登攀記録

(フリークライマーが本チャンを登ると・・・)

日時 2012年5月4日 登攀開始7:30~中央ブッシュ着10:30~頂上着15:00
メンバー 銭形警部/子持ちクライマー(夫)
使用ギア キャメロット#0.75~3 #1~3は2個 スリーカム#2 ナッツ#2~3(リングボルトのタイオフ用として)

それは、友人の銭形警部の一言から始まった。
「連休に小積ダキの『蜘蛛の糸』を登りませんか?」 私は聞き返した「小積ダキってどこにあるんですか?」
(銭)「大崩山ですよ。」、(私)「大崩山ってどこですか?」、(銭)「美人の湯のすぐ上ですよ」、(私)「?・・・・」
小川山の「蜘蛛の糸」(フィンガークラック 5.11cの大人気ルート)は昔登った事はあるが、(ちょっと自慢)
小積ダキの「蜘蛛の糸」の事は、初めて耳にするので全くわからん。
彼は私より10才年上なので、まあ大丈夫だろうと思いつつ、二つ返事で「いいですね」と、言ってしまった。
それから、ネットで一応下調べをして驚いた、9ピッチで300メートル、いつも見ている日向神の正面岩の倍近い 高さではないか? いわゆる「本チャン」のルートである。
「うーむ。」 私はいわゆるフリークライマーである。開拓でボルトラダーのフリー化ぐらいはやった事はあるが、 まずアブミを持っていない。結局これは前日になって手作りのアブミを制作する事になってしまったが。
それに、「美人の湯」は別に美人と一緒に湯に入れる=『混浴♡♡』・・・では無いらしい。ただの温泉だそうな。
そんな私を、「本チャン」のルートを登るパートナーに選んだ銭形警部の考えも、良くわからん。
しかし、「いいですね」と言ってしまった手前、すぐ断るのも失礼なのでとりあえず準備をしよう。

4月28日 マルチピッチのトレーニングと小積ダキの情報を仕入れに、宮﨑県の北方にある「梁山泊」みたいな 山荘、※「庵 鹿川」へ銭形警部と向かう。(部外者の私には恐れ多い場所とのイメージが強かった)
注※庵 鹿川(いおり ししがわ)と読む。宮﨑県内外のおやじクライマー達の隠れ家的山荘(別名鹿川神宮) おそなえ物には当然、焼酎/ビール/ワイン他アルコール類全般が喜ばれる・・・らしい。
(このホームページの管理人であるK1氏と銭形警部は、庵 鹿川の会員だそうな。道理で酒量が多いはずだ)

4月29日 鉾岳・大長征ルート+比叡山・ニードル左岩稜ノーマルを登る。(いずれもオンサイト)
鹿川神宮の神主、KU氏に聞くと、小積ダキは上記2本を合わせたより大きいとの話、しかも上部は 年々、草付きがはがれて、風化しており注意が必要との情報を聞いて、又も「うーむ」となってしまう。
大丈夫かいな?断るなら今のうちだが。
そうだ、フリークライマーの日本代表、かの平山ユージだってビッグウォールをやっているではないか!
そうだそうだ、俺もユージのように軽~く登ってみせるぜ!と、全く根拠のない自信を持ってはみたのだが・・・

5月 3日 小積ダキへのアプローチの確認とギアのデポの為に、小積ダキの取付まで行く。これはでかい!!
大きいだけではなく、左右の岩尾根と、足元に広がる照葉樹林帯が一幅の絵画のようではないか。
こんな景色の中でクライミングが出来るとは、「うーむ・・・いいではないか!!」
ネットの記事を読むと、アプローチで迷いやすいと書いてある。実際に迷ってしまったが、取付は 確認できたし、目印の赤テープをそこいらじゅうに付けてきたので、もう迷う事はないであろう。
しかし、目的の「蜘蛛の糸」は先週からの雨でずぶ濡れの状態なので、目標を「中央稜」にあっさりと変更する。

5月 4日 大崩山荘を6:00に出発~7:00中央稜の取付き着、準備をしていると東京から来た3人組が到着。
彼らは「蜘蛛の糸」を目的に来たとの事。しかも昨日付けた目印の赤テープのとおりに歩いて来た と話してくれた。効果は絶大だ。ついでに一般のハイカーまで来てしまったが、彼らは道に迷って 目印のテープを見つけてここまで来たらしい。正しい登山道を教えて帰ってもらう。

7:30 登攀開始
1P 単調なボルトラダー 25m 聞いた通り、ステンレスのハンガーに更新されていて安心。~しかしボルトが ゆるんでいるのが多いので注意。 使用されているアンカーが数種類あるのでのでモンキーレンチを 持参した方が便利だと思う。
ここで私の考えが甘かった事に気付く。私はアブミを1個しか作らなかった。しかしボルトの間隔はかなり遠い ではないか。今更考えても仕方がない。片方はテープをアブミの代わりにしてとにかく登る。
フォローで登ってくる銭形警部は、ちゃんとアブミ2個持っているではないか!(当たり前か)なるほどスムーズな 動きだ。(当たり前だ!)自分で自分のいい加減さを思い知るが、まあ何とかなるでしょう。3ピッチ目まで行けば、 後はそんなにアブミの出番は無いだろう。と、前向きにそして楽観的に考える。

2P 単調なボルトラダー 40m そのままツルベで銭形警部にリードしてもらう。3P以降は私が全てリードする。

3P 易しいフリー+ボルトラダー 30m 

このピッチあたりから視界が開けて、やっと爽快感が味わえるようになる。
湧塚尾根を登っている登山者からも見えるようになり、声援(ひやかし?)を受ける。

4P 30m 易しいフリーで窪んだテラスに上がる。その上のクラックは土が詰まっていて、フリーでは行けずA1    中央ブッシュは踏み後をたどって行けば、自然と5P目のチムニー前に行き着く。
ここまで、曇り空から時折小雨が落ちてきたり、向かいの山の稜線に雲が架かったりしていたので、降り出したら 即、撤退出来ると思っていたが、いつの間にか青空が広がってしまった・・・しょうがない行くか。

5P 25m ルート図では1ピッチで書いてあるが、ロープの流れが悪いので、2ピッチに分けてザックを荷上げ した方が良さそうである。実際、上部のスクイズチムニーの入り口に立派なビレイ点が設置してある。 易しいチムニーから、左のテラスに上がって荷揚げ。さらに右上のテラスのビレイ点でピッチを切る。

6P 15m スクイズチムニーを下から見ると、2本目のステンレスボルトにハンガーが無い! ゆるんで脱落したのか?ネットの記事に書いてあったように、初登時にはボルトは無かったので誰かが 外したのか?それなら2本とも外すはずでは? とにかく苦手な(初めて経験する!)スクイズチムニーは、私には5.12aくらいに感じてしまった。 チムニーを出て左に抜けて、ブッシュの中でビレイ。とにかく疲れたが荷上げが先だ。
その上、トンネルのピッチは歩くだけなので、下のピッチで一気に消耗した体力の回復を図る。 トンネルを抜けて左に歩き、岩の間を抜けると7ピッチ目の取付きとなる。~行動食を少し食べる。

7P 40m 登り始めて、ここからが本当の小積ダキである事を思い知らされる!
庵 鹿川で聞いた通り、クラックの左側の表面が風化しており、土の詰まったクラックはカムをセット しようにも、なかなか場所が無い。しかたなくフリーとキャメロットにスリングを掛けてのミックスで抜ける。
しかも、上半分は先週の雨のせいか、しみ出しがあり、濡れているではないか。
そして、ビレイ点直前では、左手のホールドがミシミシと音をたてた。慌てて左のエッジをつかむ。
こんな所で、落石を起こしたら真下にいるビレイヤー直撃である。緊張の瞬間!

8P 20m ここも濡れている。 もろいクラックをフリーを交えたエイドで登る。 これってA2じゃないのか? いやらしいカンテのトラバースをこなして、傾斜の緩いスラブのビレイ点に到着。 しかし足下の山並みを東に辿ると、太平洋がみえる!山の深さと対照的だが意外と近いのに驚かされる。

9P 50m スラブを右に振ってから直上。左のカンテにサイの角のような出っ張りがあり、スリングをタイオフして ランナーに使う。直上して小さなテラスが有る。さらにスラブを登るが、まともなビレイ点が無い。 例によって錆びたリングボルトのビレイ点があったが、この高度では強度に不安があるのでそのまま登る。 易しいスラブを登りハング下を右に行って、テラスでロープが一杯になる。ステンレスのハンガーがやっと 1個あり、やっとビレイオフ。完全に50mロープを使い切ってしまった。頂上はすぐそこだ。

10P 8m 5.10c程度のハングではあるが、表面が風化していて悪く、面倒になりA1で行く。 最後は岩のドームを右から歩いて登ると書いた記録もあったが、現在は崩壊して危険なようだ。 15:00到着、休憩時間を含めて7時間30分の奮闘であった。銭形警部と堅い握手を交わす。


2P目以外は全て私がリードで登ったが、上部では「落ちてはいけない」、いわゆる「本チャン」の要素が強く かなりのプレッシャーを感じたが、広大な空間を背中に感じながらのクライミングは爽快であった。
8P目ではフォローしてきたパートナーが「キャメロットをつかむと外れてしまった」と言ったので、やはりクラックの もろい部分は、A2かな?とした。いわゆるアメリカンエイドの墜落予想距離で考えてみたのだが。
又、上部ピッチでは要所のボルトのみがリボルトされているだけで、それ以外は相変わらず錆びたリングボルト が残っている。これでは緊張感が途切れる所が無い。近い将来にはリボルトされると思うが
。 これは良い意味で、ルートの質を保っていると思う。実際には恐ろしい事だが、、、 上部7/8ピッチは風化により年々様子が変化していると思われる。又季節によっても変化しそうである。
クラックの中からはギボウシがズラリと芽を出しているので、この先の季節は葉っぱが大きくなって更に難しく なりそうだ。(ギボウシの葉には水分がたっぷりと含まれているので、踏んだら即、スリップである。) 花が咲いたら、それはそれで美しいが。(紫色の花が多数咲くので写真の被写体にはなりそうだ)
それにしても、50年以上も前に、これを開拓した先人には、本当に頭が下がる。
これだけのスケールの、しかも堅い花崗岩の開拓は、どれだけの労力を要した事か想像できない。
翻って、私が開拓したフリーのルートが、この先何年クライマーの評価に耐えうる事だろう・・・・・・。
しかし考えてみたら、日向神で初期に開拓したルートは、もう20年以上は経っているではないか。
ようしいいぞいいぞ。最初からステンレスハンガーを使っているから、あと30年位なら大丈夫だろう。ガンバレ
初めて大崩山に来たが、ただ登山するだけでも本当に良い山ではないか。景色も素晴らしいし。
そして、湧塚/坊主各尾根の登山者からも丸見えでのクライミング。標高がほぼ同じなので横から見られてる。
へたに弱音を吐けば、聞こえてしまいそうだ。
しかも、岩を登りながら、太平洋が見えるじゃないか! ここは標高1400mの山中だぞ。
登り終えて思うに、もし銭形警部から誘われなかったら、小積ダキなんて一生登らなかったかもしれない。
そう思うと、「チャンスの神様には前髪しかない」とのことわざは、本当の事だと思う。あの時の二つ返事から 今回の事、全てが始まったのだから。
だが、銭形警部の頭には、まだ十分過ぎる髪の毛が残っているじゃないか!。後ろも横も、もちろん頭頂部も。
「うーむ。」私よりかなり多いではないか!10才も年上なのに。
警部!、今度こそパリパリに乾いた「蜘蛛の糸」を登りましょうか? それとも、カリオストロ城のクラリス姫の所へ 遊びに行きましょうか?
とりあえず、スクイズチムニーでぼろぼろになってしまった膝の傷が治ってから考えよう。

記録、子持ちクライマー

小積ダキ中央稜ルート  RCCグレードは不慣れなので、デジマルグレードで表示しました。
アルパインの方々、ごめんなさい。(グレードはあくまでオンサイトでの私の感覚です。)
小積ダキ中央稜ルート 1996